お酒の背景を知る楽しさを教えてくれた出会いは、白州蒸溜所だけではありません。もうひとつ、忘れられない出会いがあります。沖縄の泡盛メーカーが手がける「イムゲー(IMUGE.)」という一本です。
一度は幻となった、庶民のどぶろく
イムゲーは、もともと琉球王朝時代に庶民の間で親しまれてきた、自家製の芋の蒸留酒でした。時代の変遷とともに姿を消し、長らく幻の酒とされていましたが、離島の泡盛酒造所3社(請福酒造、久米島の久米仙、多良川)と沖縄県工業技術センターが力を合わせ、2018年に復活を果たしました。
私が惹かれたのは、まさにこの「幻」という部分です。イムゲーは、もともとどぶろくのような、各家庭で作られていたお酒でした。つまり、蔵元が管理する厳密なレシピというものが、もともと存在しません。復活にあたっても、当時そのままの味を再現できたかどうかは、正直誰にも確かめようがないのです。
レシピより雄弁だった、ある一文
味そのものよりも印象に残っているのは、復活の過程にまつわる、ある話です。イムゲーについて調べた方から、こんな話を聞いたことがあります。ある文献に「どこどこの娘はイムゲー作りが上手」という一文が残されている、というのです。
これは、今で言うところの「料理上手な人はお嫁さんに向いている」という評価と、まったく同じ構造だと感じました。お酒を仕込む技術が、その人の人柄や生活力を測る物差しになっていた。イムゲーは単なる飲み物ではなく、暮らしの中で人を評価する基準の一部でもあったのです。
正確なレシピが残っていないからこそ、逆に見えてくるものがあります。数字や工程では語られなかった、当時の人々の暮らしや価値観です。お酒の背景を辿ると聞くと、製法や産地といった技術的な話を想像しがちですが、イムゲーが教えてくれたのは、お酒には、その時代の生活そのものが染み込んでいる、ということでした。
「本当の味」が分からないからこそ面白い
現代のイムゲーが、当時の味を完璧に再現できているかどうかは分かりません。それでも、このお酒を口にするとき、私はいつも「この一杯を仕込んでいた誰かの暮らし」を想像してしまいます。
ちなみに、イムゲーは炭酸割りにすると華やかな香りが立ちますが、私が一番気に入っているのはお湯割りです。温めることで香りの印象がまた変わり、芋由来の甘やかな風味がより引き立つように感じます。
お酒の背景を知ることは、必ずしも正確な歴史を暗記することではありません。分からないことも含めて、その空白から当時の生活や価値観を想像してみる。これもまた、お酒の楽しみ方のひとつだと思っています。
本記事の内容はあくまで個人の感想・体験に基づくものです。ご意見や共感があれば、ぜひコメントで聞かせてください。もし誤りに気づかれた場合も、遠慮なくご指摘いただけると嬉しいです。
お酒は20歳になってから。飲酒は適量を守り、楽しく味わいましょう。



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